『小児歯科専科』を皮切りにファミリーデンティストを目指した頃、小児歯科学会では『小児の洪水に如何に処すか!?』と言う標題がメインテーマになる時代でした。
私鉄沿線の駅前のテナントビルには『children only』と書かれたリンゴの形のプラスチックプレートが天井から吊るされ、扉には医院名の【三敬エンジェル歯科】を掲げるだけで、クチコミだけで遠方からの親子連れで、待合室は犇いていました。
待合室には【マジンガーZ】【仮面ライダー】の人形や【トミーの立体駐車場】が飾られ、BGM にもアニメソングが流され、診療室の様子は当時ハシリのAKAIのビデオカメラで待合室に実況されていました。
やがて『小児歯科』『矯正歯科』の標榜科目が許され、新規開業歯科医の大半がそれらを標榜するようになりました。
そうした事から、小児患者は減り、小児歯科専科から家族をも受け入れるファミリーデンティストへと切り替える時期を迎える事になったのです。
その後乳歯冠・乳幼児加算が導入され、もはや小児歯科は【矯正歯科】の様な特別な診療科目ではなくなってしまい、現在に至っています。
駅前ビルの向かい合った2件の歯科医院は夫々に住み分けが出来ていて、『大人は見ない・・・』とするものと『出来れば、子供は見たくない・・・』とするものとで、お互いはそれぞれに『決して診療拒否をするものではない・・・』としていました。
当院としては、相手の歯科医院が子供を診る事は決して妨げるものではありませんでした。
しかし、一年経たずしてお向かいの歯科医院の院長は郷里に帰る事になり、そこを居抜きで譲り受けて『成人歯科室』を新婚の妻が受け持つ事になりました。
廊下を隔てた2件の診療室では効率が悪いので、その診療室より10分程の自宅のガレージを改造して〝ファミリーデンティスト(4台のチェアー)〟をスタートさせたのでした(小児・矯正・歯科一般を標榜)。
その頃、田園都市沿線の住宅開発が進み、東京の住民の移動が起こり、在来路線(旧大井町線)の変更と他院での小児の診療受け入れで、私鉄沿線の途中駅(緑ヶ丘・奥沢)の住宅街の診療室では、〝地の利〟がなく、移転を考える様になって行きました。
それは私の意欲においても、人の多いところでファミリーデンティストを目指したかったからでした。
『ニコタマ、フタコ』と呼ばれ親しまれるようになった二子玉川の繁華街と住宅街に挟まれた商店街は当時は活気があり、地元以外にも地の利があり、他地域からも以前(奥沢時代)と変わらず来てくれていました。
しかし、時代は移り『少子高齢社会』となった現在、歯科医師過剰時代となり、【歯科氷河河期】を迎えています。
私の亡父と義兄の歯科医院は甥の一人が三代目を継ぎました。
30年程前、私もそこの『小児歯科室』から独立し、建物こそ変わりましたが、私もそこで育てられたのでした。
いわば、そこは私の苗床とも言える所で、将来は町の歯医者さん(※『よいこの住んでるよい町は、楽しい愉しい歌の町、鍛冶屋カチカチカッチンな、床屋はチョキチョキチョッキンな・・・』の歌のような町の職業人の一人)になりたいと願う私には、憧れを抱かせるナニモノかがそこにはあったのです。
その頃、その後大病院の歯科医長となった大先生や、今や大家となられた歯科大教授も若き日にはそこでアルバイトをしていたのです。
当時、亡父と義兄は、夫々の得意分野を活かしていましたので、私は二人にない分野の予防歯科を志向するようになりました。父の急逝後、私は『小児歯科専科』で新規開業し、やがて、『予防矯正』『歯周病』を加えて〝ファミリーデンティスト〟を目指して行ったのです。
その後、開業地を変え、小規模ながら長期継続的管理のシステムを展開させ、今に至ったのですが、父亡き後は義兄がそこを継ぎいで現在に至っています。
父の死は、同一診療室内で、即義兄によって『かかりつけ歯科医』は引き継がれましたが、それから30年経って、またも、息子の次男が修行中の勤務医を急遽止めて引き継ぐ事なりました。
それは働き盛りの歯科医師を襲う生活習慣病の【脳血管障害】でした。敢え無く、義兄は診療現場を離れる事となりはしましたが、幸い歯科医の息子によりその歯科医院は間断なく継承されました。
義兄の突然の入院は新築間もない歯科医院を甥っ子一人で切り盛りするには厳しいものがあり、すべてを自分一人で賄うには相当無理があるように見えました。そこで、私の家内が助っ人に入り、『先代の院長の息子の嫁さん』という事で、患者さんからの『通り』は良かった・・・と言う後日談は私としては嬉しいところでした。
バリアフリー化した歯科医院は、エントランスが車椅子用のスロープになっていて、三代目の甥をして私の目標としていた地域医療の拠点を形造っている事は何より嬉しい限りです。
父親に代わって院長役を務める甥がこの厳しい時代を乗り切って守ってくれる事を祈るばかりです。