ケアマネージャーの方へ

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私のイメージしている【在宅療養支援歯科診療所】

情報掲載日 2011/09/12
資料室


はじめに
2012年の医療、介護保険同時改定を見据えたこの時期に、【歯科訪問診療】にスポットを当てることは、歯科医療史上極めて重要な事だと考えています。過去、現在【歯科訪問診療】にどの様に係って来たか、また、日常歯科臨床活動において、各受診者の在宅歯科医療を視野に入れて行なって来たか、また、今後必要とされている【在宅療養支援としての歯科医療】を地域の開業歯科医院がどの様に係わるかの認識が持てているだろうか…などなど、認識を深める時だと考えています。歯科単独で行なって来たいわゆる【出前診療】と違った、時代の要請に応えられる地域医療、保健,福祉連携による歯科医療提供が行なわれる環境に整備して行く事が、今、歯科医療界に求められているのだと思います。

在宅歯科医療が求められる社会的背景
在宅歯科医療の推進は総人口が減少する中で、後期高齢者(75歳以上)を中心とした高齢者人口が四千万人になり、ここ4年で一千万人が更に加わる勢いで、やがて、第一団塊世代、団塊ジュニア世代と続き、その25年間こそが地域において、各歯科医療機関がかかりつけ歯科医として口腔機能向上に努めることが求められて来ています。
つまり、「4人に一人が75歳以上の高齢者」の社会になる中で、開業歯科医師の生業として重大なる関心事でなければならない・・と言うことが出来ると思います。

1.【在宅歯科医療】に求められている医療環境!?
国は、医療費などの社会保障費抑制を念頭においた医療機能の分化ならびに在宅医療の推進を図っています。因みに、脳卒中などの疾患に対して、【急性期から回復期】、【療養、介護に関係する各機関間での連携体制の構築】と【状態や時期に応じた切れ目の無い医療が受けられる環境にすること】が、各都道府県毎にその計画の推進を求めてきています。また、在宅医療においては、病院から在宅に円滑に移行できる様に退院時に主治医やケアマネージャーと連携を図って、在宅医療の支援体制を構築することが求められています。

在宅医療推進の側面は経済的な問題に限られた事ではなく、平成16年厚生労働省報告書「終末期医療における調査等検討会報告書」から、『死期が迫った時に療養したい場所として、自宅を挙げる者が6割に達しているにも拘わらず、同報告書は、自宅で最後まで療養することを困難に感じる・・・』とする者が多くいて、それは、国民、医療者、看護職、介護職のいずれもが、「症状が急変した時の対応」や「家族への介護負担」に懸念を覚えている ・・・と言う現実的な困難さがあると言う事が分かりました。
 国民の最期の自己実現とも言える「終の棲家選び」に向けても、早急かつ有効な在宅療養環境の整備が進められることが望まれる所です。

2.求められる『継続的な口腔機能の管理』
1.継続的な口腔機能の管理の必要性
在宅療養者の多くは、がんや生活習慣病,認知症などに起因する回復が困難な生活機能障害を抱えていて、これらの患者は口腔機能をはじめとしたわずかな変化でさえも、容易に生活機能全般を悪化させる可能性があり、そのために継続的な口腔機能の管理が必要となります。

要介護高齢者の咀嚼障害は、舌や口唇など、歯以外の咀嚼器官の運動障害に由来する事も多く、この場合にはたとえ、精度の高い補綴治療が提供されていても、また、新たにされたとしても、咀嚼障害は改善するとは限りません。さらには、運動障害を改善すべく行なうリハビリテーションも、十分な結果が得られない事も多くあります。そのため、咀嚼障害を残存したままでも安全に食べることが出来、十分に栄養を摂ることができる食事の形態や方法を提案することも歯科医療には求められています。

10年後に後期高齢者の仲間入りすることになる65歳界隈の者の中には、残存歯の多さが口腔保健行動に支障を来たす者も多く存在すると思われます。
さらに、口腔衛生上好ましくない複雑な形態を付与した補綴・保存修復物などでは、口腔の衛生不良を引き起こしがちで、生命予後をも左右することが考えられます。殊に、咬合支持を失った者にとっては、義歯などを入れることで、咀嚼能力を回復させたり、姿勢制御上も重要で、転倒防止にも繋がり、ADL、QOLの向上にもやくだちます。また、義歯などの存在は表情を形成する上においても重要で、高齢者の尊厳にも関わる重要なことです。

兎角、患者や介護者の判断に基づく歯科医療の要請による歯科医療提供では、歯科医療が有効に介入するタイミングを逸しがちです。歯科医療者が継続的に患者の口腔内の変化や全身状態の変化を捉えながら、必要なタイミングで、歯科医療が介入できることが望まれます。

具体的な歯科医療行為が設定しにくい重症者へは在宅歯科診療の要請そのものも少なくなり、歯科医師.他科の医師の対応も提示しにくいことが影響していると考えられます。しかし、口腔ケアや摂食機能支援を通じて、より重症な療養者に対する取り組みが気道感染の予防に止まらず、食べる機能の維持、緩和ケアへの効果にも期待の持てる新しい【介護歯科】の取り組みであると言えます。

私の【在宅療養支援歯科診療所】の実際
私が行っている訪問歯科診療の実際をお話ししますと、
当院の依頼の多くが、かかりつけ患宅さんや自院の周辺の方からの直接さの要請が殆どです、ケアマネさんから依頼される事例も数件はありますが、それらは終末期を迎えていたり、将来的に摂食・嚥下障害が懸念される【多系統萎縮症】【パーキンソン】【脳腫瘍摘出手術後の摂食・嚥下リハ】の方たちで、とかく、短期の対応に止まり、やがて死を迎るか、医療に委ねられ入院してしまい、その後歯科との連携は途切れてしまいいます。治療の内容から見ると、その多くが多数歯に亘って治療を要するケースが多く、そのメインは義歯の作製・調整・修理、虫歯や歯周病の治療と広範囲の治療となっています。口腔ケアや介護食の相談を受ける事例もあり、最近では【口腔機能向上】の為の訓練を行なうケースも出て来ています。
当院の在宅療養支援歯科診療所の対象は、前期高齢者(多数歯保有者)に対する【介護歯科を視野に入れた口腔環境の改善】をメインとしていますが、【歯科訪問診療】から【食事指導】【摂食・嚥下指導】へとそのワークがやっと広がりつつあります。
今後は、【訪問口腔健診と歯・口腔アセスメント】を行い、【口腔環境の改善】に努めて行くことを目標としています。そのためには、【訪問口腔健診と歯・口腔アセスメント】を介護事業所に対して案内をする必要があり、その体制を築く一方で、先ず、「口から食べたい」という在宅療養者のご希望に対して、歯科医師、歯科衛生士、歯科スタッフが最初に行なう事は、先ず、【口腔健診と口腔ケア】で、間接的嚥下トレーニングをすることからはじめます。食事を何処で、どのような格好で、どの様なものをどの様に摂っているのか等を知る事か重要だと考えています、その為には当院では6時過ぎの食事時に訪問して診察と食事指導をする事も最近は行なっています。

次に行うことは歯科治療になりますが、自力での通院が困難な患者さんを対象とする【歯科訪問歯科診療】は、計画的な診療計画にもとづいた在宅等を訪問して行なう歯科医療行為は、実際には歯科でいうP(歯周病)やMT(歯牙欠損)に対する診療が殆どで、治療困難な歯の治療は積極的に行われていないのが現実です。
歯科訪問診療には専用機材が必要になりますが、当院では歯科医師・歯科衛生士が自宅等に専用の器材を運び込む事もあり、一定期間そこに設置させて頂く事もあります。歯を削る道具であるポータブルユニットや治療椅子に無影灯代わりとなる懐中電灯などの証明器具を持参しますが、なるべく妥協の無い治療を心がけるとなると、ポータブルレザー治療器や高周波治療器の持ち込みも必要になりそれらを持ち込むことも起こっています。

今後、問題にしなければならない事は、当院としては脳梗塞や脳出血等による片麻痺の患者さん等に関して、主治医やかかりつけ医と連携がとれる様になる事を期待しています。そこでは、居宅ないしは施設のケアマネとの情報提供は不可欠なのですが、ここで問題になるのが、居宅担当のケアマネは病院入院と同時に接点は無くなり、退院時にも連絡を受けるケースは少なく、居宅に戻らず施設に入居する事と成ると、いよいよもって入院前に係わっていたケアマネとの接点は無くなり、多くの場合は施設の契約歯科医医療機関に委ねられ、歯科主治医との接点は無くなるのが現状の様です。

在宅療養者も施設入居者も入退院を繰り返す場合は、なおの事夫々の担当のケアマネと利用者・患者の関係は断続的な係わりとなり、急性期の対応が終わり、退院となり在宅療養となる際に『口腔ケアおよび口腔機能の保持・向上』と言う歯科医療の介入の機会が失われがちに成ります。

最後に、口腔ケアの第一段階として大切な事が口腔健診で口腔内環境を把握する事で、摂食・嚥下障害やそうした傾向がある場合には、誤嚥や窒息とい、誤嚥性肺炎のリスクが付きまとい、誤嚥性肺炎から生命の危機に直結しうる事も高いので、【歯・お口のアセスメント】をとる事が重要に成って来ます。

口から物を食べるということは、口の中にある常在細菌や他の雑菌・細菌を全て取り込んでしまうと言う事です。ここで特に重要な事はそれらが【誤嚥】によって、肺に入り込む事です。それを防ぐためには徹底的な口腔ケアが必要になります。口腔内環境の整備としては、①う蝕の予防、歯牙の保存、②歯周疾患の予防、改善、③粘膜損傷、乾燥等からの改善、④誤嚥性肺炎の予防、⑤口腔及び周辺組織、筋への刺激による廃用予防、といったことを柱として行っています。

嚥下リハにおける歯科側のアプローチ事例については、STさんとも係わりを持っていますが、歯科医師側からのアプローチについてお話しをしておきたい事は、誤嚥性肺炎を防ぐためのには徹底した口腔ケアが必要です。次に歯牙の保存、虫歯の治療です。虫歯があると状態の悪化によって咀嚼・嚥下が難しくなったり、廷出した歯牙により口が閉められない状態になってしまい、嚥下がしにくくなったりして、経管栄養と胃ろうとなり(※二年間の絶食状態)、口腔内の筋肉及び周辺組織が軽い廃用状態になる事もあります。そこでは、先ず、廷出した歯の抜歯と廃用からの脱却をめざして、嚥下に必要な筋のマッサージを行う事が必要になってきます。

歯科医師も他の職種と連携することで、より力を発揮する事ができます。特に医科の先生との連携で、口腔内の疾患の早期発見・治療につながり、【口腔機能の保持・増進・向上に寄与する】事ができます。また、当院では必要に応じて昭和大学歯科病院の【口腔リハビリテーション科】の協力を得て、嚥下機能の回復を図る態勢をとっています。