情報掲載日 | 2011/09/16 |
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資料室 |
介護保険制度が始まり、歯科医療機関はさまざまな場面で制度に関わりを持つことに成りました。想定でき場面は、Ⅰ介護認定での場面、Ⅱケアプラン作成・管理での場面、Ⅲ介護サービスでの場面に大別されます。平成十年度のモデル事業の結果を参考に各場面ごとに歯科との関わりを解説致します。
Ⅰ介護認定での場面
Ⅰの介護認定での場面では①基本調査を行う調査員としての関わりと②介護認定審査会での審査委員としての関わり、③かかりつけ歯科医意見書を書く側としての関わりが考えられます。
調査員(正式には介護認定調査員という)とは、介護保険の請求をした被保険者(この段階ではまだ要介護者ではない)のところに行き、訪問調査を行う人のことを言います。調査員には『保健婦』、『看護士』の資格者が多いのですが、歯科医師も『介護支援専門員』資格を得て『指定居宅介護支援事業者となった者が『調査員』と成っています。Dr.angelもその一人です。
『調査』は、八十五項目の調査事項と特記事項と呼ばれる記述式の調査事項の二種類あります。平均約四十分かけての調査となり(事務処理・移動時間は含まない)、調査票の設問は『高度な医療知識』を必要とするものばかりではありません。「自分の名前を答えることができる・できない」「排便後の後始末について… 自立・間接的援助のみ・直接的援助・全介助」など。『介護関連の調査項目』も多く、なかには「麻痺等の有無について…」は、「なし・左上肢・右上肢・左下肢・右下肢・その他」のように判断(診断?)に悩む項目も沢山あります。『麻痺』が明らかに「ある」場合はともかく、少し「ある」場合はどう判断するのか。軽度な「ある」も重度な「ある」も同じ「ある」でよいものなのか調査員が『医療の素人』である場合には『判断』が難しいところがあります。
先ず、『八十五項目の調査結果』をコンピュータにかけて一次判定が行われ、『訪問調査結果』が『要介護認定』の重要な基礎資料となるので『調査』は正確に行われなければなりません。
『介護認定審査会』は東京の場合、ほぼ区市町村ごとに作られています。
構成は「保険・医療・福祉の学識経験者…おおむね五名」となっていて、すべての地域、審査会に歯科医師の参加が望まれています。
審査会では、一次判定結果と、訪問調査時の特記事項、かかりつけ医の意見書を総合的に判断して二次判定を行います。二次判定では「かかりつけ医の意見書」が重要な要素となっているために、
「かかりつけ医の意見書」には歯科に関する項目が「口腔清掃(はみがき等) 自立・一部介助・全介助」「嚥下… できる・見守り・出来ない」「食事摂取… 自立・見守り・一部介助・全介助」と、三つあり、この三つの項目にチェックが入っていた場合には、審査会の中で、他の項目との関連に注意しながらこれらの項目を正しく判断する歯科医師の役割が大きいと言えます。
審査会は平日の夜七時~九時頃開催され、一回の審査時間は約二時間。二十~三十件の審査を行うので一件当たり約五分程度で審査が行われています。問題のない事例は簡単に行い、何かあると時間をとって審査を行う形なので五分の審査ではたして好いのか…?と言う指摘はあるのは事実です。
多くの人口を抱える地域では当然請求件数も多くなる。審査会の回数を増やしたり、審査会を複数設けたり(合議体)して対応することになる。審査会の回数が増えれば審査委員の負担が増え、審査会が複数できれば統一した解釈を保たなければならないなどの問題も出ている様です。
日医では、月に数回開かれる審査会へ参加する医師の負担を軽くするため、ローテーション制を提案しています。
介護保険の認定の請求をすると、訪問調査を受けると同時に「かかりつけ医」に「意見書」を書いてもらうことになります。作成に関わる費用は介護給付とは別に区市町村の事務費の中から支払われます。
歯科医は「かかりつけ医の意見書」を書くことができないので、被保険者の口腔状態を介護認定審査会に正確に伝える手段はありません。調査票にある三項目のみでは口腔の状態を正しく介護認定に反映させることはできません。
審査会によっては独自の資料として、「かかりつけ歯科医の意見書」を採用しているところもあります。審査会が認めればこのような措置も可能で、介護保険の請求をすると「かかりつけ」の歯科医が診断を行って「かかりつけ歯科医の意見書」を書きます。記載された「意見書」は審査会に提出されて介護認定の重要な資料となります。東京の各審査会でも「かかりつけ歯科医の意見書」の採用を考えるべきではないかという意見もあります。
「かかりつけ医の意見書」や「かかりつけ歯科医の意見書」にも問題がないわけではありませんが、「かかりつけ医(歯科医)」がいない場合には保険者が誰かを指定しますが、それまでに診たことのない人の「意見書」を書くことになる事には不安を訴える医師(歯科医師)もいます。
Ⅱケアプラン作成での場面
歯科医療機関と介護保険制度の関わる場面の一つが、ケアプラン作成の場面です。その関わりは①ケアマネージャーとしてケアプランを作成する場面と、②ケアプラン作成に関しての情報を提供する場面とではそれぞれで違ってきます。①の場合にはケアマネージャーの資格が必要ですが、②の場合には必要ではありません。そこで、それぞれを考えてみました。
ケアマネージャーになるには、東京都が行う介護支援専門員実務研修受講試験に合格して実務研修を受け合格し、実務研修を受講しないければ、ケアマネージャーにはなれません。
歯科医師がケアマネージャーの仕事をするには、自身が指定居宅介護支援事業者となるか、事業者に登録する必要があり、指定居宅介護支援事業者で業務に従事しなければなりません。
ケアマネージャー一人が受け持つ利用者数は要支援・介護者計五十件で、アセスメントの実施からケアカンファレンスの開催やケアプランの作成、再評価など行う業務などたくさんあります。三ヶ月に一度介護認定を受け直すたびに、受け持つ利用者の件数分の業務が発生します。自身で事業者となった場合には、これらの業務の他に事業者の管理業務も発生するので、決して片手間にできる仕事ではありません。いったんケアマネージャーとして仕事を始めると、受け持つ利用者の選り好みはできませんので、必ずしも歯科医師として関れる訳でもありません。医療保険で診ることの出来る患者さんだけを受け容れるなどと言うことは法律で認められていません。
【ケアプラン作成】に際して情報を提供する場合には、介護保険の給付がプランに記載されていないサービスは対象にはなりません。ケアプランは医師、看護婦、保健婦、ヘルパーなどが参加するケアカンファレンスを経て作成され、歯科のケアプランもここで、認められなければなりません。介護保険利用者の口腔状態が悪ければ、かかりつけの歯科医師に意見を求めてくることも考えられます。また、摂食指導や、口腔清掃についての注意点などを聞くために、場合によってはカンファレンスに呼ばれて意見を求められることもあります。
シュミレーション:『介護保険への歯科の介入』
≪例≫数年前から寝たきりになって、最近訪問歯科診療を受け現在自宅で療養中のAさんが『介護保険制度の中での歯科医療の介入』を受けられるようになるには次の手順が必要です。
①Aさんは介護申請をすると同時に行政が直接依頼して、かかりつけ医が意見書を書きます。
②現在訪問歯科診療にかかっている為、「他科受診」の「歯科」欄にチェックが付けられて来ます。
③かかりつけ医が口腔を見てその状態が悪い場合には、医学的管理が必要と判断すれば「医学的管理の必要性」の「訪問歯科診療」にもチェックがついて来ます。
④ケアマネージャーはこのチェックで、『居宅療養管理指導の必要性』を判断することになります。
⑤歯科医師にケアカンファレンスに参加してもらうのか、ケアプランにサービスとして記載するかどうかが重要な判断材料となります。
⑥かかりつけ医によって『医学的管理の必要性』の基準が違うことが考えられるので、日頃からのかかりつけ医との連携が必要となります。
⑦要介護に認定されると、ケアマネージャーはAさんのところに訪問してケアプラン作成のためのアセスメントを実施することになります。
⑧アセスメントの方式は何通りかありますが、ケアマネージャーの口腔への関心度によって歯科の位置づけが変わってくることになります。
⑨Aさんの口腔状態が悪いと判定されれば、居宅療養管理指導の対象になることが考えられます。
⑩給付を行うためにはケアプランに指導計画を記載しなければならなりません。
※ 記載内容は「頻度と内容」。
※ 記載内容は、「口腔状態が良くないので、週に一回、ベット上での本人と家族への「ブラッシング指導と口腔清掃実施」などとした口腔に関するケアプラン表の作成が必要になります
⑪ 『Aさんのケアカンファレンスを行いますので、〇月〇日〇時にご参加下さい』などの連絡がケアマネージャーから来ることになります。
※ケアカンファレンスはこれまで見てきたように介護保険上の重要な会議なので、歯科衛生士だけではなく歯科医師も参加することにもなります。
※居宅療養管理指導を受ける人は、継続的な医療の管理下に置かれていることが前提になっていますが、制度発足当初から介護保険申請と同時に医療保険を利用する人も多いことが予測されていましたが、現在そうした状況にはなっていません。
介護保険制度における歯科の立場
ケアプラン作成時=介護計画の段階から歯科がかなり関われる場面が考えられていましたが、ここでの関わり方をシュミレーションして見ますと、介護サービスの提供はケアプランに記載されていることが前提になっています。
『歯科の居宅療養管理指導の算定』は、歯科界ではケアマネへの報告のみで、『承諾書の授受』も無いままで行なわれているのが慣例でした。昨今、医療保険での審査指導の対象とされていますが、本人が介護の申請をして認定され、ケアプラン上での『居宅療養管理指導』の有無が、医療保険での医療活動とは違う扱いがここにあるのです。
Ⅲ介護サービスでの場面
歯科医師や歯科衛生士が要介護者に介護サービスを行った時に算定できるのは、居宅療養管理指導料で、要介護者を医学的に管理している場合には請求ができます。「要介護者に対して訪問診療等を行い、計画的な医学管理を行っている場合に、一月を単位として包括して設定」とあり、「医学管理下」にあることを前提に居宅療養管理指導の請求が出来るということです。ここで言う「医学管理下」とは歯科訪問診療料(医療保険)を請求しているということになるので、イメージとしては歯科訪問診療料の一月分を、介護保険の【居宅療養管理指導費】として、歯科医師は一回歯科衛生士は月最高4回までに限り算定できるようになります。もちろんカルテや居宅療養管理指導を請求するレセプトは、医療保険とは別に作成することになっています。
歯科医師が行う管理の内容は「居宅介護支援事業者等に対する介護サービス計画の策定等に必要な情報提供、介護上必要な口腔衛生等に関する留意事項、介護方法等についての利用者及び家族等に対する指導・助言」となっています。ケアマネージャーがケアプランを作成するにあたって、歯科医師の助言が欲しい時などに、その患者の状態などを伝えた場合や、患者や家族にブラッシング指導を行ったり、摂食指導を行った場合となっています。
歯科衛生士の場合は「それまでの診療報酬と同様に、利用者宅を訪問して療養指導を行った都度、現在の訪問歯科衛生指導料と同様です。業務内容も、「ブラッシング指導や摂食指導など」(電話での質問に対する口頭による回答)であり「実施した…内容について、速やかに記録を作成すると共に、…歯科医師に報告をしなければならない」(居宅療養管理指導の運営基準(素案))となっていますが、その内容は『在宅療養上の歯科からの指導内容』となります。
シュミレーション:『居宅療養管理指導の請求』
①ある日歯科訪問診療を行っている「Aさん」について、「要介護度2に認定されたのでケアプラ
ンを作成したい。ブラッシング指導について意見をお願いしたい」とケアマネージャーから連絡が入ります。
②「Aさん」は先日訪問したばかりなのでカルテを出して口腔の状態や指導の内容をまとめ衛生士に渡します。
③本来なら先生自身がケアカンファレンス行きたいところですが、忙しいのでとかく歯科衛生士にケアカンファレンスに参加してもらうことになりする。
④歯科衛生士は先生の指導内容を持ってケアカンファレンスに参加し、他の業種の人たちと全身ケアについて検討を行うことになります。
⑤プランがまとまったら、歯科衛生士は先生に報告して居宅療養管理指導が始まります。
⑥先生が行う訪問診療(医療保険)は、いままで通りに行うことになります。
⑦歯科衛生士の指導内容もこれまでとあまり変わりません。
⑧介護保険に関わる指導内容は、介護保険用のカルテ内容を医療保険のカルテに記載して、枠で囲むことになります。
⑨衛生士が行った指導内容は、記録を作成して先生に報告します。
⑩毎回の指導のあとには利用料をいただき領収証を渡します。
以上のような流れになるが問題点がいくつかあります。介護保険用カルテは医療保険のカルテと一緒に保管し構 いませんが、同じような指導内容なので書くべきカルテを間違えないようにしなければなりません。歯科衛生士の指導記録は毎回の訪問後にきちんと記録をして先生に報告をするようにします。なお、居宅療養管理指導の実施時には利用料徴収が義務付けされています。歯科の場合にはあまり複雑な点数にはならず、居宅療養管理指導分は一割負担となり、医療保険部分はこれまで通りとなり、会計が面倒になり当然領収書も別々に発行することになります。
請求は居宅療養管理指導料を介護保険用のレセプトで国保連合会に提出します。入金は請求の翌々月である。会計は医療保険分と居宅療養管理指導分を区分しておかなければなりません。